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2010 07,23 12:54 |
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命がけの罰ゲーム。
だらだら長い小説です。絵は無いです。 暴力かつR-15くらい。ご注意下さい。 (ご本人によるお目通しと許可は頂いております) 続きに。 ■代償■
【遺跡外宿泊街裏手、枯れ芒が原 ポイント E-27】 少年少女3人が横たわり、仲良く気絶している。 私は歌うのを止めてヒトの姿へ戻った。 「フィス様、未宇さん、僕は取引があるので先に行きますーっ」 「私も行かなきゃいけないから後を頼んでいいかな?」 「いいよ〜」 ゆーじと未宇が後片付けもそこそこに走り出す。 予想以上に長引いたのだから仕方ない。見切りのある取引は大変だ。 「さて、と」 周囲を確認する。 戦闘直前に張った結界は健在だ。殺し合いのために産み出した、外から見えず、聞こえず、入れない結界。 これがある限り少年少女の身の安全は保障される。 私は唯一の少年—ユウトに歩み寄った。 うつ伏せの身体にマントが覆い被さり潰れた蝙蝠のようだ。 「起きてーユウトー」 笑いながらばさりとマントを持ち上げる。 ぬちゃぁと真っ赤な糸が引いた。体液と、泥の糸。 「ゲボ、ゴホッ」 激しく咳き込みながらユウトが顔を上げる。 その瞳に浮かぶのは焦燥、困惑、僅かばかりの恐怖。 「話さない方がいいわ。知ってる?話すのはすごく体力を使うの。ドラマや漫画の世界はあながち間違いじゃないのよ」 顔を上げているのは辛いだろう。 優しく仰向けに転がした。 「は…っ はっ……きさ、ま…」 腹の下には真っ赤な血溜まり。 真っ黒な服の上からでもしっとりと濡れているのが解る。 「だから話さない方が…まあいいわ。私が何をしたか、気になってるんでしょう?」 しゃがみこむ。 目を合わせる。 「『手加減しなかった』だけよ。貴方だけにね」 練習試合は人狩りではない。 全力を出すことはない。あくまで『練習』『試合』だから。 でも今回は殺し合い。 「安心して。私はフェミニストだからエデルちゃんとキャルちゃんには試合威力で合わせてるわ」 私は開始直後に彼らから体力を奪った。敵から体内のマナや魔力を吸い出し、味方の体を活性化する技。 その技がユウト掛かるときだけアレンジを施した。 マナや魔力が体を抜け出す瞬間だけ固形化するように。 「代わりに貴方の魔力…魔気かしら?それはたっぷり吸い出させてもらったから」 スクウィーズで魔力を絞り出すその瞬間、魔力は刃となり肉体を…内臓を引き裂きながら抜け出ていく。 出来るのはごくごく小さな針で開けたくらいの穴。 満身創痍で魔力を底上げし続けたのがユウトの失策。 痛みが魔力を産み、魔力が痛みを産みながら抜け出る循環。 「身を切られたなら縫えばいい。骨を断たれたら固定すればいい。じゃ、内臓はどうするのかしらね?」 つん、と腹部をつつく。 水を含んだスポンジを押したように血が染み出した。 「これは殺し合い。そうよね、ユウト?」 血に濡れた指をぺろりと舐める。 こちらを見上げ苦し気なまま朦朧としているユウト。それを優しく運ぶようにベルシーに指示した。 「ベルシー。先に行って寝かせておいて」 「わかりました」 空間を引き裂き『道』を作る。 歩き出そうとするベルシーの腕の中のユウトに囁いた。 「仰木 ユウトはここで死ぬ」 目を見開くユウトに微笑みかけ、ベルシーを見送って血溜まりに向き直る。 集中。 複写した魂から情報を引き出し、肉体を構築。同時に魂の情報を精製した魂に転写。 先の失敗を踏まえて隅々までチェック。 「…っと」 私の身体から黒い影が分離する。 力無く倒れ込む黒い影は『仰木 ユウト』そのもの。 出来栄えに笑みが零れるが、大袈裟な血溜まりにトンファーが残っているのに気がついた。 そっとトンファーを握る。 パキ 魔力に堪えきれずにそれはひび割れ砕けていく。同時に血溜まりも分解され消えていった。 気絶している『3人』にドレスを摘まんで一礼し、私は跳んだ。 ◆ 揺られながら暗い道を進む。 俺様は小柄ではない筈なのに、抱えているこの男は眉ひとつ動かさずしっかりした足取りで歩いている。 「…」 血で接着された口を開けばぷちぶちと音がした。 気づいたのか男は視線を下ろす。 「話さない方がいい。私は主と違い能力を持たない。正確に聞き取れない」 蒼碧の瞳は何の感情も浮かんでいなかった。 面倒さも哀れみもなにもない。 「行き先はここ。終わりの先です」 「!」 暗い空間が豪奢な天井に変じた。 呆気にとられたのも束の間、柔らかい物の上に寝かされる。 血で汚れていく柔らかな物はベッドだった。 「寝心地はいかが?」 面白そうな声にのろのろと頭を上げる。 青髪の男が素早く枕を差し入れ、俺様は半ば座るような体制で声の主————真祖魔王を睨みつけた。 「まだ元気そうね」 そんな俺様を嘲笑うように手招きする。 と。 「ぐぶっ」 口から身体から鮮血が迸る。 その血は真祖魔王に吸い込まれた。 「結構ギリギリまで抜いたのだけど。若いっていいわね」 心底愉しそうに笑っている。 子供が虫を殺すより簡単に、真祖魔王は俺様を殺せる。それをしないのはこれがただの余興、お遊びだからか。 「ふふ、まだ殺してあげない」 微かにベッドが軋む。 真祖魔王が縁に腰かけたからだった。 手を伸ばし、顎を持ち上げ、俺様の瞳を覗き込んでくる。 「言ったでしょう?仰木 ユウト…違うわね、『仰木 勇人』はここで死ぬ」 真紅の瞳には何も浮かんでいなかった。 顔だけが暗い笑みを湛えている。 ふざけるな、と思うが言葉は出ない。 「…言っておくけど、心を読んでるから聞こえているわよ。言いたいことは思ってくれれば伝わるから、話さなくていい」 言いながら真祖魔王が俺様の服に手を掛ける。 何をする気だ。 「邪魔だから」 つい、と指が動いたかと思えば上着がバラバラに千切れていた。 朱に染まった身体を、真祖が撫でている。 「酷いね。我ながら酷い。私はよっぽどユウトが好きなのかもね」 ここまできて、まだ殺さない辺りが。 その呟きはしっかりと耳に届いた。 殺される。 夢物語だと、憧れていた世界の真実はこんなものだったのか。 「今更?」 呆れたような声がぐさりと突き刺さる。 刺しただけで満足してくれるほど、真祖魔王は優しくなかった。 「ユウトは私を殺そうとしたでしょう?力で捩じ伏せようとしたでしょう?」 ぐ。腹を圧される。 俺様が悲鳴を上げて激痛に身を捩るのを可笑しそうに眺めている。 「なのに、私に殺されるのは嫌なの?力で従わされるのは嫌なの?」 血と涙と脂汗でぐしゃぐしゃになった俺様の顔を真祖魔王が舐め上げた。 肉食獣は柔らかい場所から食う。 かぶり付く場所を舐めて、柔らかくしてから喰らう。 「大丈夫、私はユウトが好きだから殺したりしないわ。仰木 勇人はここで死ぬけれどね」 青髪の男が俺様の肩を押さえた。 真祖魔王がペロリと舌を出し————— そのまま、自分の舌を噛み千切った。 「な————ぅぐ」 口を塞がれる。 流れ込む血。血。 血、では、ない? 強引に口をこじ開け、オレの唇を、舌を真祖魔王の舌が蹂躙する。 その舌からは血が滴っていたはずなのに、甘い味しかしない。 「んぅ…んん」 情けない声が出る。 その声に嘲笑に似た笑いで真祖魔王が応えた。 「か わ い い」 「ふ、ぅ…!」 頭に何かが捩じ込まれる。快楽と憎悪、それを覆う愛情。 視覚を乗っ取られる。目まぐるしく『視える』ものが変わる。 紅潮した自分の顔。見下すような真祖魔王の顔。その二つを同時に視ているのは、青髪の男の目だろうか。 「私の心も見せないと、フェアじゃないわね」 「————————!!!!」 真祖魔王とオレの口は繋がっている。それでも聞こえる。 口ではないどこかから、耳ではないどこかに送られる声。 送られてくる感情。オレに対する嫉妬。羨望。怒り。失望。期待。好意。庇護欲。殺人欲。 潰される。殺される。 助けてくれ!まだ、まだ死にたくない!!! せせら笑う。 笑う息遣いまで感じる気がする。 ちゅ…ちゅぅ 上手く息が出来ない。目の前が白く霞んでいく。 見かねたらしい真祖魔王が舌を使って喉に血を押し込んだ。 朦朧としながらそれを感じていたが、奇妙な事に気づく。 息が、できる。 「わぁ」 真祖魔王の間の抜けた声が聞こえた気がした。 …これを飲めば息ができる。そう学習した身体は悲しいほどに正直で、オレは押さえつけられた不自由な体勢でフィスを抱き寄せ唇を貪り始めたのだ。 口を離すという選択肢は無い。 そんなことをしたら、オレは死ぬのだから。 「何も考えなくて良いわ。考えるだけ時間の無駄」 柔らかい声。 頭の奥で警鐘が鳴る。このままでは踏みにじられると。 フィス… 「なぁに?」 包まれる。純粋な愛情。 さっきまでの圧し潰されるような暴力的な奔流はなく、染み入るような暖かさ。 続く言葉が見つからず、ただ手に力を込めた。 フィスはそんなオレの頭を優しく撫でると、少し我慢してねと囁く。 ずぶ 「!!!!!」 フィスの指が下腹部に突き込まれた。そのまま胸元まで引き裂かれる。 口に鉄臭い血が流れ込む。それを丁寧にフィスが舐めとる。 「すぐに殺してあげる」 何が起きたか解らなかった。 オレの身体を引き裂いたフィスの腕が千切れ、傷口に落ちる。 激痛。同時に傷口が焼けるように熱くなった。 そっと唇が離れる。 薄赤い唾液の糸が垂れた。 痛みと熱に悶えるオレを宥めるように撫でながら、フィスが歌う。 「Happy birthday to you,Happy birthday to you,Happy birthday, dear 愈宇土,Happy birthday to you.」 おめでとう〜、と笑いながら拍手。 もう痛みはなかった。傷痕もない。疲労もない。 むしろ今までにない位に調子がよかった。 気づいてしまった。今、オレは何をされていたか。 「貴様ぁ!!!!」 とんでもない事を————取り返しのつかないことをされた。 怒りに任せ、男の手をはね除け飛び掛かる。 「あははははッ 気に入らなかった?とてもよく似合うのに!」 「何がだ!」 ひらりとオレの手から逃れた、その余裕に怒鳴る。 それに答えるかの如く、にいぃとフィスの顔が歪んだ。 「その銀髪。」 「ッ!?」 慌てて髪に触れる。 綺麗な銀。間違っても白には見えない銀の髪。 「せっかく似合ってるのに残念。目もお揃いだし」 私と。そう言いながらついと視線を動かす。 思わず視線を追えば鏡があった。まさに姿見と言えるような巨大な鏡。 銀髪で赤い目をした人物が2人映っている。 金のドレスの女と、黒衣の男。 「な—————」 これはなんだ。 オレは黒髪で黒い目で、こんな、色ではない。 そう思った瞬間、鏡の中のオレは黒目黒髪に戻った。 「もうやめちゃうの?」 「ッ!」 声の主にもう一度飛び掛かる。 今度は呆気なく捕まった。 「説明しろ!」 「ユウトを魔王にした」 「なぜだ!」 「成りたかったんでしょう?」 「ふざけるな!!」 「望んだくせに…。『アイツ』とやらと代わってもらうだけにしようと思ったけど、居なかったのだから仕方ないでしょう?」 フィスの手が動く。 それだけでオレは動けなくなった。身体が何一つ言うことを聞かない。 「死徒が真祖に勝てると思った?…もっとも私は元から魔王だけど。しかも魔王になる前は人間だったけど」 「く…」 身体が勝手にフィスから手を放した。 そのままぎこちなくフィスに跪く。 「仰木 勇人はもうどこを探しても居ない。居るのは仰木 ユウトと愈宇土だけ」 フィスは跪いたオレに合わせて身を屈め、前髪を除けると右目に口づけてきた。 触れられた部分がじくじくと疼く。 「どういう…!」 オレの問いには答えない。 ただ余裕の笑みを浮かべるだけ。 「それは見てのお楽しみ。もうユウトに居場所はない————私の許以外は。さ、島に戻りましょう」 魔法陣で跳ぶ時のような浮遊感。 色とりどりの光が明滅し、視界が鮮やかに変化した——— ◆ 「まったく、ユウトのせいで散々な目に遇ったわ」 目の前、ではない。向かい側にエデルが居る。 「手も足も出なかったし、ね」 その横に宵闇の魔女。 なんだ、これは。 口の中に何かがある。 咀嚼するとそれが肉なのが解った。 「勝手に助太刀に来たのは貴様らだろう!」 飲み込んで、反論する。 真祖魔王との決闘で惨敗したことをさっきからずっと責められている。初めこそ謝罪した俺様だが、こうネチネチ言われるといい加減に腹が立つというものだ。 さっきからずっと? ずっと…? 刹那、記憶が流れ込む。思い出すのとは違う、何かを捩じ込まれる既視感。 そうだ、遺跡外宿泊街裏手、枯れ芒が原 ポイント E-27で目覚め、真祖魔王からの『ねぇねぇ今どんな気持ち?』というふざけた置き手紙に憤慨しつつ食事のために店を探し、入り、料理を食べながら、ずっと。 ならあれは。 「夢、か」 小さな呟きが聞こえたのか間髪入れずにエデルが喚く。 「何言ってんの!あんなボコボコにされたのが夢なわけないじゃない!!」 『そうそう。夢なわけがないでしょう?』 からかうような、艶っぽい声が聞こえた。 総毛立つ。嫌な汗が背中を伝う。 『そんなに心配しなくてもいいのに。近くに居る訳じゃないし。私は宿に居るわ』 心底面白そうな声を聞きながら口はエデルに反論する。 反論しながら心の内でフィスに怒鳴る。 何をした。 『ユウト自身に【アイツ】とやらになってもらっただけ。その身体と中身、魂は『仰木 ユウト』のもの。私が作った複製』 複製。 そういえばフィスは、ベルクレアの兵士を連れていた。あの青い髪の男。 『でもその複製は、私達に負けた後にエデルちゃん、キャルちゃんと一緒に目覚め、共に過ごした言わば【本物】』 激しい言い合いをするオレとエデル。 慣れたようにパスタをつつく宵闇の魔女。 頭が二つあればこんな感じなのだろうか。 『その身体はいつか死ぬ。さぁ、その時『貴方』はどうなるかしらね?ふふ、80年後の楽しみが増えたわね』 頭が追いつかない。 いや追いついてはいる。2人分の記憶と感情の処理など簡単だ。 『魔王って便利だと心底思うわ。他人を自分と同化させてしまう事も可能なんだから』 どこか冷めたような声が突き刺さる。 その声にフィスの意識が遠ざかるような気配を感じた。 待て。 『待たないわ。取引がまだ済んでいないし。———用事があるなら後で呼んで。どこにいても、ユウトの声は私に届くから』 慰めるように何かが頬を撫でるのを感じ——気配は消えた。 視線がなぜか窓へと向く。エデルがキレ気味に叫んだが、そんなことはどうでも良かった。 視線の先。窓の外を、女が歩いていく。その女がふとこちらを向いた。 銀髪に赤い瞳をした女が、確かにオレだけを見て微笑んだ。 「お は よ う」 「—————ユウト!!!!」 べちゃぁ 「うぶッ!」 顔に冷たいものが載った。 慌ててはね除け起き上がる。 「チェックアウトの時間に間に合わなかったらどうするのよ!!追加料金取られちゃうじゃない!!!」 真っ白なクリームを視界から退かしながら声の方を見る。 いつも通りエプロン姿のエデルがそこにいた。 「…エデル。貴様、部屋を汚せば追加料金が取られるとは考えなかったのか」 床に墜ちたパイシート。 クリームの飛び散ったシーツ。 「あ… ぞ、雑巾借りてくるわ!」 猪のような勢いでエデルは飛び出していく。それに頭を抱えながら立ち上がった。 やたらアレな記憶達は全て夢だったらしい。 真祖魔王に惨敗したという事実が俺様に屈辱的な虚実を見せたのだろう。 倒れた俺様達を悠然と見下ろし、癒しの歌を歌っているヤツの姿が脳に焼き付いている。 『Happy birthday to you, Happy birthday to you, Happy birthday, dear 敗北者, Happy birthday to you.』 歌詞も忘れることが出来ないがな!! …まあ、俺様をあの悪夢から救ったエデルには感謝してやろう。 絶対に言ってはやらないが。 荷物からタオルを出そうとして、真祖魔王の残した書き置きが落ちた。 『ねぇねぇ今どんな気持ち?』 そのふざけた文言の下に、赤いシミが浮き出るのを見てしまった。 『魔王と殺し合い、命を賭けるって、こういうことよ』 ◆ ふと、主が歌うのを止めた。 「どうかしたんですか?」 歌詞はまだ途中だと思うのだが、主は首を振る。 「起きちゃったからね。子守唄はお仕舞い。目覚めの歌を歌わないと」 要領を得ない答えだが、つまるとこ「おやすみ」から「おはよう」に変わる時間になったらしい。 確かにもう陽は高かった。 軽くリズムを取って再び歌い始める。 「Good morning to you, Good morning to you, Good morning, dear …」 どこかで聴いたメロディーだ。 私の視線に気づいたのか、主は笑う。 「こっちの方が古いの。これをBirthdayに変えたのが誕生日の歌」 世界で一番歌われているのはBirthdayね。と付け加える。 道理で聴いたことがあるわけだ。 「…おはようございます」 「うん。おはよう」 凡てのモノに白々しく現実を突き付ける、金色の太陽が笑っていた。 悪夢は目覚めれば逃げられる。現実からはどうやっても逃げられない。 _________________ A choice The third(3つ目の選択肢) PR |
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